店  名
 角館 謎のラーメン店
食べた日
2007/04/23
住  所
 秋田県仙北郡角館町金山下115-66
営業時間
11:00〜17:30
電話番号
 0187-62-3222
定休日
不定

肉そば
麺
チャーシュー
スープ

前  説

 一緒に立ち話をしていると、モノスゴク疲れる人がいる。理屈っぽい喋り方をしたり、変なトコロで話の腰を折ったり面白みのない話をしたり、まぁ真面目な性格だからって言えばソウ言う人なんだケド、同じ様に話していても、座って話をしているんなら大丈夫だって、ある日気が付いた。

 ハロー!をスワヒリ語で言ったのと同じ発音のニックネームを持つソノ人は、身長が190cm強。コッチが楽な目線で話をしようとすると、ソノ人の胸の部分しか見るコトが出来ない。だから顔を見ながら話す時は、常にアゴを30度位上向きにして話す必要がある。コノせいで疲れるのか…。って気付いたのは、同じ会社に勤めていたソノ人が辞めた後だった。

 アマリ話が合うって感じはしなかった。例えば食べ物の話をしてみてもソノ人にとって重要なテーマとは、どれぐらいの量があって、いかに安いかと言うポイントに限定される。そりゃーソノ体格を維持するにはソレぐらいのエネルギー摂取が必要なのかもしれないけれど、B食クラバーには過剰過ぎる。それよりもなんかこう雰囲気が良いとか、店員さんの笑顔が素敵だったとか、そんな話も聞いてみたい。でも、そう言うレスポンスが帰って来たコトは無かった。

 ソノ人が、角館にまるっきり民家って風情のラーメン屋があるって教えてくれた。看板も暖簾も出ていないし、そもそも探し出すコトが困難だと、楽しそうに言っていた。味がどうとか、店の造りがどうとか、そう言うコトはヤッパリ話してくれなかったケド、なんだか楽しそうな雰囲気だけは伝わって来た。

 以来、そのラーメン屋さんはTVや雑誌、インターネットでも頻繁に見かけるようになった。紹介されるのを見る度に、なんだか少しの疲労感に襲われてる様な気がするのは何でだろう?もしかしたらソノ時のB食クラバーを鏡で見ると、知らず知らずの内にアゴが30度程、上向きになっているのかもしれない。


Comment

 看板も暖簾も無いソノ店は、どうやら世間では『伊藤』ってコトで知られているらしい。ラーメン伊藤、手打ち伊藤など、紹介するメディアによって店名が統一されている気配は無い。伊藤さんって人が恐らく作っているのだろうコノお店。角館に存在する、暖簾も看板もないラーメン店と言う共通認識はしかし、読みとるコトが出来る。

 角館でお昼ゴハンを食べるコトになった。その為このラーメン屋ともう1軒、違う店をリストアップした。ドチラかが休みだった場合はもう一方へ行くと言うプランは、ミュウと人類のどちらかに地球の未来を託すSD体制を無意識の内にならったか。もう一方の店が休みだったので、伊藤さんが作るラーメンを食べに行くコトにした。

 目標は日の出食堂。コノ隣に目指すラーメン店はあるらしい。そして日の出食堂は、アッサリと見つかった。日の出食堂の隣にラーメン屋…だよねぇ。民家の様なラーメン屋…だよねぇ。ん〜っと日の出食堂の隣に、日の出食堂の持ち主の方が所有していらっしゃる風情の民家はあるケド、民家の様なラーメン屋さんはありませんがドコですか?と、辺りを360度、何度も何度も検索しまくる。

 なにをどうやっても見つけられないB食クラバーは思い切って、日の出食堂に入って店員さんに聞いてみるか!って考えてみた。でも、食堂に入って(ココでは無い)ラーメン屋探してるんですケド…って言うのも失礼な話だし、何よりもB食クラバーはソコまで厚かましくなれない。って言うかホトンドの人がそうだと思うケド。

 日の出食堂でカツ丼でも食べた後、『そう言えばコノ辺に暖簾も看板も無いラーメン屋があるって聞いたんですケド、ドコにあるんですかね?いや、チョット興味本位で聞いてるんですケド。デヘデヘ。』ッテなコトをさり気なく聞いてみれば良いだろうか?でも途中で噛んだりしたら、思いっ切りついでだってバレバレだ。いや、カツ丼よりもむしろ軽めなうどんにするべきか?とか考えていたトコロ、日の出食堂の隣の民家の壁に、一般家庭用としては不釣り合いな程に大きなプロパンガスのボンベを何本も発見した。

 …。もしかしてココですか!ココなんですか!?と、胸に突然ギターのリフが流れ、ロックが走しりだす。玄関らしき風除室をみてみると、一般家庭ではマズあり得ない本数の傘が、巨大な花瓶の様な陶器に、何本も何本も突き刺さっていた。あぁ、探すべきは民家の様なラーメン屋さんではなく、民家ソノモノだったのか!

 ココが目的のラーメン屋だと確信を得たB食クラバーは、玄関の扉を開けるべく腕に力を込めた。しかしソノ瞬間、『あいぃ〜、ドチラ様だべ?』と、家の中から呑気なバーサンが怪訝そうな表情でコチラを伺う映像がフラッシュバックする。人生とは何度も扉を開け続けるコトだと、尾崎豊は言っていた。結果的にドチラに転ぼうとも、コノ扉もソノ1つなのだ。そう自分に言い聞かせながら、ユックリとドアを動かす。ソノ先に見えたモノは…!

 セルフのウォーターサーバーとカウンター。そして今マサにラーメンを食べ終えたお客さんと、出来上がりを待っているお客さん達。ココで良かったのだ!ホンの一瞬前、必死な思いで打ち破った扉が、一気に古ぼけて壊れていく。もうコノ扉はB食クラバーの中には存在しない。今迄に壊した扉とコレから遭遇するであろう扉の数、一体ドチラが多いのだろうかと、気にならないでもない。

 しかしマダ、今目の前で起こった全てを信じるコトが出来ない。民家の扉を開けると中にはラーメン屋があるなんて!ホントにココはラーメン屋なのかと店内を見回す。手書きのメニューが、一箇所だけに貼られている。そば\500と肉そば\650。各大盛り\100増し。ソノ隣には、化学調味料は使ってないと記されている。やはりココはラーメン屋なのだろう。コノ期に及んでようやく確信を得、カウンターに腰を下ろす。

 改めて店内を見回す。カウンターが8席程の店内と、磨りガラスのドアを隔てた向こう側に厨房があるらしい。厨房から出て来た店主と思しき男性は、前のお客さんが食べ終わったドンブリを下げた後、B食クラバーに一瞥だけくれて再び、厨房がある磨りガラスの向こうへと消えて行った。

 あれ?いつ注文すれば良いですか?と思ったB食クラバーはしかし、何故か石の様に固まり、注文お願いします!とか言うコトが出来ない。店主はきっとアレだ。ドンブリを洗ったり、下ごしらえの準備をしたり、何かの必要があって厨房に引っ込んでいるに違いない。ソレが済んだら注文を聞きに来てくれるよ、きっと!と、思う様に努力した。

 そしてヤハリ、少し時間を置いてカウンターに出て来てくれた。コノ瞬間を逃さず、肉そばを注文してみた。パッと見、何となく話し掛けづらそうな方かなぁと勝手に思っていたのだが、常連さんかご近所さんか解らないが、親しそうな関係に見えるお客さんとは和やかに談笑している雰囲気が伝わって来る。先入観だけで何かを判断するコトなど、あってはいけないコトだと思い知るのは一体何度目のコトだろうか。

 肉そばが到着した。コチラで提供して頂ける料理は、そばと肉そばの2品のみ。そばと表記されているが日本そばでは無くラーメン。しかもドンブリの中には、スープと麺の他はネギしか乗っかっていない。シンプルと言う言葉が遠くに霞んで見えなくなって行く。質実剛健、剛毅木訥、一意専心。そんな言葉の方がシックリ来る。肉そばはソレに、チャーシューが乗っかる。

 濃いめのスープに浮かぶ白い麺。早速頂く。麺が手打ちらしいコトは、時折混じっている端切れの存在で解る。しかし、口の中に入れても全く違和感がない。目で楽しめるソレは、たい焼きのはみ出した皮の様でもある。嬉しいオマケ。白く若干太めな麺は、スパゲッティのアルデンテ前って風情が無くもない。

 スープは色同様、味も濃いめ。麺とネギだけだとお腹が一杯にならないかもしれないと思って肉そばを頼んだのだが、ネギとそばダケで充分お腹も満足する程のコッテリ感。ソレは、スープの濃さに由来するモノか。チャーシューは薄くスライスされてたり、ブロックの形をしていたりでまちまち。想像でしかないが、そばコソが自分が本当に作りたいモノだと考えているのかもしれない。

 常連っぽい佇まいな他のお客さんが何を食べているのかと気になって見てみると、皆そばを食べていた。ヤハリそばで充分満足出来ると言うコトなのだろう。満腹になりたかったら、そばの大盛りを食べれば良い。

 今迄に、民家の様なラーメン屋・民家の様なスパゲッティ屋・民家の様なカレー屋など、何軒も『民家の様な…』と称される店で食べたコトがあるが、ソレらはヤハリ、全体を見ると民家だが、ドコカを注視すると店だと言うコトが解る造りをしていた。しかしココは違う。民家の様なラーメン屋では無く、民家の中にラーメン屋。コノ表記が一番正しいだろう。

 食べ終わったB食クラバーは改めて店を外から眺め、決心する。もし誰かにコノ店はドコにあるのかと聞かれたら、こんな風にアドバイスしたい。民家の様なラーメン屋では無く、民家を探せ!…って。