店  名
 東屋
食べた日
2007/06/03
住  所
 岩手県盛岡市中ノ橋通一丁目8-3
営業時間
11:00〜20:00
電話番号
 019-622-2252
定休日
不定休

店外観
薬味&桶
おかず
マグロ
そぼろ
ナメコとろろ
そば1杯
わん201杯

前  説

 【野望】
  (1) ふさわしくない大きな望み。
  (2) 身の程を知らない大それた望み。

 野望と言う言葉を辞書でひくと、コンナ風な説明が書かれているようだ。コレによるとどうも、分不相応な望みに対して使うらしい。じゃあ、ソレを望むに相応しい地位と力を持った人の望みならば、いくら大それていてもソレは野望とは言わないのだろうか。

 野望と言う言葉を聞いてB食クラバーは、信長の野望とかギレンの野望なんかを思い出す。信長は天下統一を旗印に掲げ、ギレンは地球圏の管理運営を目論んでいたが、ソレらは分不相応な望みだったのだろうか?

 結果的にソレらは実現されるコトは無かったワケで、そう考えると身の程をわきまえていないと言えなくもない。しかし、彼ら2人はソレを望むに足る地位と力を持っていたのではないだろうかと、B食クラバーは思ったりなんかする。

 ココに、とある野望を持っている人物がいる。その人物が抱く野望には、『人生三大麺野望』と言う名前が付けられている。麺野望と言うからには、麺料理に関しての望みらしい。

 ソノ内の1つは、稲庭うどんを自分の手で綯うコトで、コレについては既に望みを叶えたらしい。残る2つの内1つが、盛岡名物わんこそばを食べるコトで、常々ソノ魅力と言うか、自分のわんこそばに対する情熱を吐き出しては、眠れぬ夜をいくつも過ごしていた様だ。

 ソンナに食べたいのならば食べるべきだろう。幸いにして、日本全土やラグランジュポイント迄の範囲を我が手中に収めたい!と言う大規模なモノでは無く、少々お金を奮発すれば叶う望みである。

 以前B食クラバーは、盛岡駅前の啄木庵でわんこそばに挑戦したコトがある。挑戦−。そう、わんこそばには挑戦と言う言葉コソが相応しい。ホンの一口にも満たない量のそばが、次から次へと椀の中に投げ込まれる。一体何杯食べるコトが出来るのか、アタシを疲れさせたらアンタの勝ちよ!と言う態度とも感じられなくもない店員さんとの駆け引きなど、ベースには熱く燃える勝負スピリッツが流れている。

 当時の啄木庵では100杯食べると横綱で、後は記憶が頼りないが90杯で大関、80杯で関脇と、大相撲の番付になぞらえて証明書を発行してくれていた(様な気がする)。なんせ10年位前の話だし、啄木庵の場所にも今は他の店が入っているので確認のしようがない。

 ただ、100杯は食べられずに悔しい思いをしたコトだけは覚えている。わんこそばに再チャレンジするのならば、是非とも100杯をクリアしたい。ソンナ思いも込めて盛岡へと旅立った。目的地はわんこそばの老舗、東屋。100杯食べると記念に証明手形を発行してくれると言うのが、コノ店を選んだ理由だ。

 今度コソ100杯食べるぞ!の決意も固く、人生三大麺野望の持ち主であるトコロのクラバーRさんと共にわんこそばと戦った、ココに記すのはソノ魂の記録である。


Comment

 東屋の暖簾をくぐる。店員さんに案内され、お座敷席の、一番奥に座る。いや、正確に言うとお座敷には案内されたが、一番奥に座ったのは我々の勝手な判断だ。と言うのも店内には5〜6組のお客さんが他におり、コノ中でわんこそばを食べてしまうと、店内中の視線を浴びてしまうコトが確実だろうと思われたからだ。

 いくら何でもソレはキツイ。普段、他からの注意を一切浴びるコト無く、道端の雑草・壁際の花・一握の砂の様な人生を歩んでいる我々にとって、誰かから見つめられている状況があるとすれば、ソレはモノスゴク日常と懸け離れ、非現実的だ。只でさえ、秋田→岩手と言うアウェーでの戦いだというのに、コレ以上のプレッシャーは何とか逃れたい。その様な気持ちが我々を、出来るだけ死角へ死角へと回り込ませたのだ。

 まぁモットも、わんこそばと言うのは盛岡市民にとってモノスゴク日常的なコトで、誰かが食べ始めたトコロで、まるっきりの無関心で、全然見向きもされないモノなのかもしれないが。

 ソンナ気持ちを抱きつつ、店員さんにわんこそばを食べたいと告げると、『わんこそばは2階になります。』と言う返答。ヤハリわんこそばは、盛岡市民にとってもスペシャルなコトなんだと実感する。もしコノママこの場所で食べるコトになっていたら、店内中のお客さんの視線を、まるでスポットライトの様に集めてしまうトコロだった。ホッと胸を撫で下ろしながら、2階へと移動する。

 宴会場のように広い2階は、一体何畳あるのだろうか?200人位は平気で人が入れそうな気がする。何か眩しいモノを感じたB食クラバーが視線を移すとソコには、1組のお客さんの食べ終わった跡が。高く、幾重にも積まれた椀の数が、激戦の内容を無言の内に物語る。

 店員さんの話を聞くとソノお客さんグループ中に、140杯食べた人がいると言う。食べ終わったソノ人の心の中は、勝った!と言う気持ちに溢れ、充実した気持ちで店を後にしたに違いない。出来るコトなら我々も、いや、B食クラバーもソレに続きたい。

 もみじおろし・ねぎ・わさび等の薬味をテーブルの上に置きながら店員さんが、わんこそばの作法を伝授する。おかわりをする時は椀をテーブルの中央に掲げる・薬味は椀がそばに入っている時に入れる・そばと一緒に入るスープは飲まずに、溜まって来たら捨てる・もう食べたくないって言う時は椀にフタをする、などの基本的なコトだ。

 心なしか店員さんの態度が、コチラを挑発している様に感じられなくもない。しまった。既に勝負は始まっているのだ。精神を集中し、勧められるままに金太郎の腹掛けの様な前掛けをして、そばの到着を待つ。しかし待っている間に、コノ前掛けをした時点で負けているんじゃないだろうかと言う気分がして来た。

 ツユがこぼれたり、食べきれなくて吹き出してしまった時などにコノ前掛けは有効だと思われるが、ソレを身に付けるってコトは、自分がそうなるってコトを想定しているってコトじゃないだろうか。本来、ツユもこぼさず、吹き出しもせずに食べてコソ初めて、わんこそばに勝利したって言えるのではないかと、そんなコトを考えている間に店員さんが、何10杯ものそばが入った椀を抱えてやって来た。いよいよ勝負の始まりだ。

 試合はいつだって0-0から始まる。誰に対しても公平だ。いよいよB食クラバー対わんこそばの、戦いの火蓋が切って落とされた。キックオフのホイッスルと、6万人の大観衆による声援を体中に感じた。

 まず1杯。カナリ少ない。コレならば100杯も楽勝じゃないか。懸念すべきは同じ味の連続によって、食べるのに飽きるコトだなと、コノ時は冷静なB食クラバー。まぁその為に薬味もタップリあるしね♪と、コノ時迄は余裕タップリなB食クラバー。しかしコレが恐るべきコトに、10杯程度たべたトコロで、そばの味に飽きて来てしまったのだ!

 事前に聞いたトコロによると、わんこそば15杯で、フツーのかけそば1杯分位の量になるそうだ。なら、このタイミングで飽きて来ると言うのにも頷けると言うモノだが、今回はわんこそば100杯を目指している。かけそばに換算して7杯弱を食べなくてはいけないので、そんなコトも言ってられない。先はマダマダ長い。試合は始まったバカリなのだ。………なんだか泣きたくなって来た。

 早くも薬味を入れまくるB食クラバー。そのせいでテンポが遅くなり、店員さんが若干暇を持て余している様に感じる。何だか間が持たない。こう言う時は店員さんに、わんこそばにまつわる質問とかして場をつないでみた方が良い様に感じたがソレも束の間。30杯位食べると、もうそんなコトは気にしていられなくなって来た。

 男性の平均が60杯、女性の平均が30杯程度と聞いていたが、夢中で食べた後フト気が付いたクラバーRさんが、自分が今一体何杯食べているか店員さんに聞いてみると、63杯だと解った。女性の平均の倍、男性の平均を上回ったコトに高揚したクラバーRさんのペースが、更に一段上がる。人生三大麺野望の真っ直中にいる充実感で満ちあふれている様だ。

 クラバーRさん、頑張っているなぁ〜と余裕をかましていたB食クラバーだが、気になって自分の椀を数えてみると、69杯しか食べていないコトが解って愕然とする。モノスゴク差を付けていたと勝手に思い込んでいたのだ。対店員さんダケではない。目の前にいるクラバーRさんとも勝負しなければならないのだ。気が付くと周り中が敵だらけ。完全にアウェーの状態だ。ココで信じられるのは己1人ダケである。

 『はい、じゃんじゃん』・『はい、どんどん』・『はい、もういっちょう』と、そばを椀に注ぐ度に店員さんがユルく声をかけてくれていて、そのアマリの力の無さに、もう別にコノ掛け声いらないのになぁ〜とか思っていたのだがコノ時、『はい、頑張って』と、わんこそばを食べ始めた時から何回も繰り返されていた言葉が突然心に突き刺さり、胸に染みた。あぁ〜店員さん、今迄(勝手に)敵視していてゴメンナサイ。気が付かなかったケドずっと応援してくれていたんだねぇ〜!と反省し、B食クラバーのギアも1段上がった。

 しかし、奮闘もココまで。80杯を目前に、もはや1口も入らないよぉ〜ってな状態になった。ソノ間も着々と椀を重ね続けるクラバーRさん。輝いている。背景に薔薇の花びらが舞っているみたいだ。

 翻って満腹で動けないB食クラバーは、そばを椀に入れたまま休憩宣言。少し休んでから食べるツモリだったのだが、クラバーRさんは、休むと満腹中枢が満たされて食べられなくなると言うし、店員さんはそばがスープを吸って増えてしまうと言う。確かにソノ通り当たり前のコトで、B食クラバーの休憩宣言は半ば、もう食べませんよと言うギブアップ宣言でもあったのだ。

 『ココまで来たら100杯食べて下さいよ』と言う店員さんに対し、『100杯食べると何かあるんでしたっけ?』と、解っているのに問い掛けるB食クラバー。『100杯食べると証明手形が貰えます。』と店員さん。ソノ事実を確認できたら、100杯食べるモチベーションも上がるに違いないと思って聞いたのだが、闘志に火が付いたのは、あろうコトかクラバーRさんの方だった。

 一体ドコにそんなパワーが秘められているのか。お腹の中にブラックホールがあるとしか考えられない。クラバーRさんは見事に100杯を突破し、101杯を食べたトコロで静かに箸を置いた。何事かを達成し終わったモノの充実感が、クラバーRさんを包んでいた。

 ココで、全ての興味はB食クラバーが100杯食べられるかに向けられた。いや正確に言うと、アンタ一体イツになったら100杯食べ終わるの?と言う無言のプレッシャーが、B食クラバーに寄せられた。さっき仲間だと思った店員さんも、一緒に秋田から遙々とやって来た(本来味方のハズの)クラバーRさんも、いつの間にか敵になった様に感じられる。

 100杯食べ終わらなければコノ空気は、永遠に続く様に感じられた。嫌だ。早くコノ場から逃れたい。ソンナ気持ちがB食クラバーを後押しする。コンナ後ろ向きな気持ちでわんこそばを食べなければならないなんて。気のせいではなく、本気で泣けて来た。一体何でコンナ目に。

 思い返せば最初の頃、薬味を色々入れたりしていた時は、まだまだ余裕で食べ進められていた。しかしココ10杯前後は薬味を入れる気力もなく、只々機械的にソバを胃袋に流し込むコトの繰り返しに終始する。って言うか、わんこそばを自動で食べてくれる機械があるのなら、今、目の前に欲しい!一億円払っても良いから使わせてくれっ!そんな心境だ。

 96杯目辺りでいよいよお腹も限界に。もうコレ以上食べられませんぜっ!と、胃袋が拒絶反応を起こす。胃袋の形が解るとか言った生やさしいモノではない。1杯のわんこそばを食べ切るのに(今迄以上の)不自然な間があったのは、逆流を始めたそばを胃袋内に押し戻すコトに必死だったからだ。胃袋の上端から2〜30本程度のそばが頭を出している絵が想像できる。まるでイソギンチャクみたいだ。

 99杯を食べ切った。『もうコレ以上食べられません。100杯で終了します!』と、食べる前から宣言する。コレでコノ、長くてツライ戦いにも終止符を打つコトが出来る。そう思いホッとしているB食クラバーの横で、マサに横で、正確に言うとB食クラバーの持っている椀の2cm横に、101杯目のわんこそばが用意されていた。

 『(100杯目を)食べ終わった後、スグにフタをしないと次が入りますよ。』不適に笑いながら店員さんがつぶやく。…悪魔の囁きとはこう言うコトを言うのか。一瞬でも味方だと思ったのは、コチラを油断させるタメの常套手段だったのか!

 精神を集中する。コレから実行する作戦には、寸分の狂いも許されない。失敗したら最後、逆流わんこそばによる地獄絵図が眼前に展開されるであろう。箸を置き、左手に椀を持ち、右手にフタを用意する。スープと共にそばを口の中に流し入れる。1秒と間をおかずに椀にフタをかぶせる。ミッションコンプリート!見事に101杯目の侵入を阻止し、食べ終わるコトに成功した。

 店員さんの目が優しく輝く。今迄厳しかったのは、アナタに勝利の喜びを味わって欲しかったからなのよと、まるでスポ根モノの最終回で、鬼コーチが涙を流しながら、優勝した主人公に向かって告白している様な、ソンナ暖かみを感じる。証明手形に、100と言う数字が書き込まれる。遂に念願だった、宿願だったわんこそばの100杯突破を達成した瞬間が訪れた。

 歓喜の爆発!紙吹雪が舞い、カクテル光線に照らされる。We are the championの大合唱が始まる。W杯で優勝し、誇らしげにトロフィーを観衆の前に掲げた歴代の選手達もコンナ心境だったのだろうか。ソノ余韻はいつまでも、いつまでも続くのだろう。

 …B食クラバーにはソノ後、4日間程満腹感が続き、キチンとした食事をしていなかった。もう一生そばは食べなくて良いや!とまで思ったハズなのに、最初に抱いた空腹感の直後、食べたいなと思ったのがそばだった。人間の体とはつくづく不思議なモノである。