東京に住んでいたB食クラバーが秋田に帰って来たての頃、なんかアレだよねー。秋田の蕎麦ってアンマリ美味しくないよねーと、何様になったツモリかで思っていた。
(今思えば)ホンのちょっとダケ何かを調べたり人に話を聞いたダケで、秋田には稲庭うどんがあるし、蕎麦不毛の地って言われているんだと鵜呑みにし、実際ワリと最近まで、そうなんだって思い続けていた。
当時に比べて、例えばネットの情報量なんて比較し得ない程増えているし、B食クラバーの個人的な行動半径も広がるにつれ、秋田にも美味しい蕎麦屋がイッパイあるコトが解り、蕎麦不毛の地なんかでありはしないと言うコトが解った。
ソレでも尚、果たしてB食クラバーが知らなかったダケなのか、ココ最近で急激に秋田の蕎麦レベルが上がったんじゃないだろうかと言う疑問を拭い去るコトは出来ないが。
なぁ〜んて、相変わらず何様のツモリかで思っているB食クラバーは、秋田で一番!とか言われている蕎麦屋の情報をキャッチした。場所は中仙付近。老舗蕎麦店の一つであるトコロの室町砂場で修行した店主が、秋田で開いた店らしい。
B食クラバーは砂場で蕎麦を食べたコトは無いが、一度行ってみたいと思っていたのは間違いない。
マズは日本酒をやりつつツマミを食べる。ツマミったって蕎麦屋だから、鶏の唐揚げとかピザとかが出てくるワケじゃない。玉子焼きなんかを食べて蕎麦が来るのを待つ。
薬味のネギやワサビを、イキナリめんつゆに入れてかき混ぜたりせずに、蕎麦を食べる合間の箸休めに一舐め二舐め。そうして後にもう一枚せいろを追加し、食べ終わった後は蕎麦湯で以てめんつゆを頂く。
そしてお勘定時に、てやんでぃ!べらぼうめ!神田の生まれかい?サンマは目黒に限るね!頑固だね!いなせだね!ってな会話を店主とした後、また来るよ!って言いながら暖簾をくぐって出ていけば、誰もが認める一人前の江戸っ子だ。
東京都内に何軒かある砂場を名乗る店にB食クラバーが行かなかったのは、そのレベルまで行かなくても美味しい蕎麦屋はカナリあったし、今度行こう!って思っている内に秋田に帰って来てしまったと言うのが真相だ。
もうアンマリ食べるチャンスもないかなーと思っていた砂場だが、東京では無く秋田で食べられるとなれば、出掛けずにはいられない。あらよっと!と、掛け声も軽くソノ店、おそば若竹へと車を向けてみた。
イメージ的には、広い道路から少し離れたトコロにある手狭な感じの店かと思ったが、着いてみるとR105に面した広い敷地に立つ店だった。
敷地内の駐車場と思われるトコロに車を停めようとしていると、ソノ付近の草刈りをしている風情の男性が手を止めて店内へと入っていった。暖簾をくぐるトコロで『どうぞ〜』とか言ったので、どうやら彼がコノ店の店主だと言うコトが解って少々ビックリ。
初めて行くお金持ちの家の家主に取り次いで貰おうと、丁度ソノ辺を歩いていた使用人に口を効いて貰おうと思ったら、なんとソノ使用人が家主だったと言う、昔からよくあるパターンのストーリーをなぞった気分でもある。
入り口で靴を脱ぐ。広い玄関に続く広い廊下。もしかしたら元は民家だった建物を改装したのかもしれない。畳敷きの部屋が2つ。一方の部屋は沢山の人が座れる様にか、部屋の端から端まで長いテーブルがカウンターっぽい感じで設置されており、もう一方の部屋には4人掛けのテーブルが4つ程設置されている。他にお客さんはいない。
メニューは和紙に筆で書かれている。蕎麦のトコロには大きく『江戸流そば』と書かれている。いやが上にも期待が高まって仕方ない。本来ならばマズ、お酒貰おうか!とか言いたいトコロなのだが、今日は車で来ているしソンナことは出来ない。せめて飲んだ気分ダケでも味わおうかと、ツマミの玉子焼きを頼む。
すると店主、『本当はコノ玉子焼きってぇのはお酒を飲みながら〜』と、蕎麦のしきたりと言うか作法みたいなモノを話し出してくれた。いや、モチロン知ってますよ!と心の中では思っていたのだが、知っているのと実際に店主から話しを聞くのとでは、その経験に圧倒的な差があるような気がして、『あぁ〜、そうなんですか!』と答えてみた。
気分が良くなって来たのか店主は、次々と蕎麦について語り始めてくれた。ソノ殆どは蕎麦文化(と言うモノがあるのだとすれば)のとっかかり部分についての説明だったが、砂場に行ったコトの無いB食クラバーにとっては、大変魅力あるモノの様に感じられた。
あ、ソノ話知ってますから、と言って遮るコトは簡単だが、何かを知った様な気になって接するトコロから、相手は新しい顔を見せてくれなくなるモノで、また自分自身にとっても、新しい情報は入って来なくなる。
そして何より、秋田に蕎麦文化を広めようと一所懸命な様子が感じられる店主が話をしている姿を見てるダケでも、楽しい気分になって来る。
チョイ濃いめな味付けの玉子焼きを頼んだ後、散々迷って『かき揚げ御膳そば』を頼む。メニューに商品名が書いてあるダケなので、(後から考えると)どう言う蕎麦なのかサッパリ解らずに注文したのだが、コレがまたカナリ変わったルックスをしている。
つゆが入った入れ物に、ソノ口径よりヤヤ小さめの直径を持つ掻き揚げが入っている。B食クラバーが見慣れた感じの構成だと、蕎麦が乗った蒸籠、つゆが入った入れ物、そしてソレとは別の皿に掻き揚げが乗って来るモノだとバカリ思っていたが。
店主が、コレがホントの天ざるのスタイルなのだと教えてくれた。店を開いてシバラクの間は、天ざると言う名前で出していたが、お客さんが皆戸惑うとの理由で、かき揚げ御膳そばに名前を変えたのだとか。
蕎麦は更級。噂で聞く様に、麺の量はカナリ少ない。下の蒸籠が透けて見える感じだ。麺の細さ、白さ、艶っぷりも素晴らしく、食べるのが勿体ない様な気分にもなる。コレをツユにつけて頂く。意外な程濃いツユに驚く。コレだけ濃いのならば、麺はツユにチョットだけ付けて食べるモノだよって言われても納得がいく。
海老と小柱の入った掻き揚げは、コレでもかって位カリッカリに揚げられている。コンナ言い方をしたら店主に失礼だが、そのカリカリ具合は、どんべいの後乗せサクサク天ぷらと双璧をなしそうだ。モチロン、比べるまでもなく圧倒的に若竹の掻き揚げは風味が豊かで香ばしい。どんべいの天ぷらは1ヶ食べれば充分だが、若竹の掻き揚げは何枚も食べたくなる。
細い上に透明感とコシのある蕎麦は、しかし量が少ないのであっと言う間になくなった。メニューから察するに、コチラの店では、更級蕎麦とは別にもり蕎麦も提供している様なので、改めてもりを注文してみた。
すると店主、『ウチの店では最初にまとめて何枚か注文されても1枚ずつ出すんだよ。』と教えてくれた。確かに、同時に出されても1枚を食べている間に、放っとかれている方の蕎麦の風味は、時間が経つ毎に落ちるのだから、当たり前と言えば当たり前だ。ココの店主は蕎麦をホントに愛しているんだなーと感じた。
続いて出されたもり。コチラの方がよりB食クラバーのストライクゾーンを直撃した。ハッキリ言ってB食クラバーの貧乏舌では、更級の微妙な繊細さをイマイチ理解出来ないのかもしれない。蕎麦の風味・コシ・喉越しなど、確実にB食クラバーが今迄に食べた蕎麦の中で群を抜いている。
コレが老舗の、伝統の蕎麦なのかと、毎日お昼ゴハンはメロンパンでガマンしてお金を貯めて、長い間憧れるだけの存在だったケリーバッグを初めて手にした時の様な感慨に。もりのツユは、かき揚げ御膳そばのに比べると、ソレ程濃くは感じられない。そしてコチラもアッサリと、美味しく頂いた。
食べ終わって一心地着き、店内に貼られた『若竹の蕎麦とは!』的な文章を読む。そば粉は北海道・福井県産、醤油は千葉県、だしは鹿児島・枕崎、汁の製法や保存料を使っていないコトなどが書かれている。
秋田県でナンバーワンだと聞いてやって来た蕎麦屋は、確かに間違いないコトが体感できた。秋田市内にあったのなら、日本酒をやりながら蕎麦を〜と粋にキメたいトコロだが、そうはいかない辺りがもどかしい。ま、ソンナこと言ってる時点で粋じゃないってコトになるのかもしれないが。
憧れを体感できたB食クラバーにとっては素晴らしい店だったが、もしかして静かに蕎麦を食べたい!って言う人には向かない店なのかなーって気がしないでもない。