店 名
よいやよいや

住 所

秋田県秋田市山王3-5-32

初めて食べた日
2003/04/29
TEL.

018-824-4180

営業時間

前 説


 昨年末、秋田市山王にオープンした居酒屋。酒を飲ませる店にはおよそ不釣り合いな程
に広い駐車場を持つコノ店には、何となく惹かれるモノがあったのだが、それはアルコール
と言うよりも、店の外に大きく並ぶ、寿司とか天ぷらって文字に心がときめいていたからに違
いない。行く機会を伺っていたB食クラバーに、師匠から次の様な報告があった。

 『いちごの天ぷらが美味しかったです。』

 …マジですか。いちごってアノいちごだよな。とても天ぷらに向いた食材とは思えないが、
世の中にはアイスクリームの天ぷらってモノもあるし、良〜く考えてみればイチゴ大福だって
発売当初はカナリの驚きを以て迎えられていたハズだ。地中海方面にはイチゴのリゾットも
あるし、ヒョットしたらどんな料理にも合う、オールマイティな食材なのかも知れない。

 ソノ独特な存在感ゆえに、ヤケにフレッシュな印象を与えがちなイチゴだが、実は師匠が
勧めてくれた食べモノの中で今迄美味しくない!って思ったモノ一個もないし、コレは食べ
ないワケにはいかないだろう。よいやよいやに行ったら、いちごの天ぷらを!と思いながら、
しかし時間は過ぎ去っていった。

 GW前の只でさえ忙しい日々の中、それに追い打ちをかける様な、仕事上の緊急事態が
発生。従業員全員でそれに対応していたある日のコト。不意に時間が空いたので、皆で晩
ご飯を食べに行こう!と言う話になった。

 しかし、アホみたいに忙しい数日間を過ごしていたせいか、チョットでも空いた時間は休息
に当てたいと考えた従業員が多かったのか、B食クラバーMさんを含む総勢4名と言う、超精
鋭部隊での参加となった。

 だがコノ方が都合が良い。B食クラバー主導で店を決めるコトが出来るからだ。(って言うか
いつもだいたいB食クラバー主導ですが。正確に言うと、反対意見が出にくくなる。)会社の
お金だし、よいやよいやに行くのに、コレ以上の機会があるワケがない!ソッコーで場所を
提案。コチラの思惑通りに会場は決まった。

 

Comment


 今日迄忙しかったし、明日からもまた忙しいって言うのが解り切っていたため、アルコール
は無しだからな!と申し合わせていたのだが、一歩店内に入った瞬間に却下。全員が中
ジョッキを頼むという暴挙を敢行。カウンター越しに見える厨房の網の上で焼かれている鶏
肉やマグロやイカの香りが、入店と同時にリミッターをブッちぎる効果に一役買った。まるで
媚薬。焦げた醤油の香りがプワゾンの様に感じられる。よいやよいや、フェロモン過多。

 メニューを広げてみたが、とにかく多いと言う印象。全員、やや疲れていたので選ぶコトが
出来ない。ダメ元で盛り合わせってないの?って聞いたら、メニューには載ってないが出来
るとのコト。天ぷら盛り合わせ、刺身盛り合わせに続いて寿司を頼もうとしたら、本日は予約
のお客で一杯で、寿司はストップだと言う。残念だ。

 ふと2階を見ると、全て格子戸のついた個室になっている様だ。吹き抜けになって2階の
格子戸だけ見るコトが出来るのだが、あの扉の向こうで皆が寿司を食べているのかと思うと
無念さダケが心に去来する。

 仕方ないので、他に焼き物と揚げ物と、念願のいちご天ぷらを頼んでみた。その瞬間、コ
チラの注文を聞いていた店員の動きが止まる。後ろを歩いていた店員の足も止まった様な
気がするが、それは疲れた上に空きっ腹で流し込んだビールのせいに違いないと思い、す
ぐに気にするのを止めた。

 刺身盛り合わせにはアジやサンマも乗っかってきた。あまり刺身では食べたコトが無いの
で珍しかった。天ぷら盛り合わせは次から次へと出てきて、終わりはいつ来るのか?ひょっ
としてわんこそばの様に、コチラからストップ宣言をしなければ延々と続くのでは無かろうか
と思えた位である。好い加減腹一杯になったトコロでエビ天の登場。エビ天を食べずに天ぷ
ら盛り合わせを食べたと言えるのか?と自問自答し、ムリヤリ流し込んだりした。

 本日のメインディッシュ、いちごの天ぷらが御到着。先程、注文をとっている店員の後で歩
みを止めた店員で、今迄の店内の様子からしておそらく店長とおぼしき人だが、その人が
直々に持って来た。ドラマはココから始まる。

 店:『いちご天ぷら、お持ちしました。コチラはどなたの御注文ですか?』
    (↑あきらかにクラバーMさんに狙いを定めながら。)
 B:『あっ、コッチです。』(ようやくの御対面に瞳キラキラ。)
 店:『あっ、失礼しました。』

 と、普段ならココで店員はあっと言う間にいなくなるモノだが、ナカナカどかない。何だろう
って思ってフト見てみると、とてもお客に見せられる代物じゃない程ニヤニヤしている。まさ
か!って思い、

 B:(おそるおそる)『ヒョットしていちごの天ぷら注文されたの、今日初めてですか?』
 店:『今日ドコロか、ココ3日で初めてです!』

 店員を含め、一同大爆笑。その中で、青いタレ線をバックに、1人うつむき加減なB食クラ
バー。マジですか。店長がワザワザ持って来た意味が解った様な気がした。いちごの天ぷ
らには、御丁寧にコンデンスミルク迄ついてくる。1つ口にする。高温の油で揚げられて、熱
を持ったいちごの酸っぱさが、口の中一杯に嫌な感じで伝わる。徐々に広がる不幸なビジョ
ン。世の中の何もかもが上手くいかないのは、全てB食クラバーのせいだと思えてくる。

 沈痛な面もちのB食クラバーを見て、更に爆笑の輪が広がる。コレは何かの罰ゲームです
か!?一通り笑い終わった後で、クラバーMさんのB食魂に火がついたのか、食べたくなっ
た様だ。って言うか、最初から興味を持っていたハズである。この様な料理を見て食べたく
ならない様では、B食クラバーとは言えない。

 クラバーMさんも非痛な表情を浮かべる。自分もコンナ表情をしていたのかと思うと、辛さ
が2倍になって伝わる。しっかし、こんだけ辛そうな人見て、良くあんなに思いっきり笑えるモ
ンだな、とフォースの暗黒面にも似た感情が急浮上して来る。ダースベイダーへと変身して
しまったアナキンの気持ちも何となく解った様な気がした。

 一通り満足した後店長は、おわびに日本酒を頼んでくれたら並々とつがさせて頂きますと
言い残して去って行った。さすが店長、商売上手である。3日で1品しか売れない様な料理
を、何故メニューに載せているのか良く解らないが、忙しい店内で、ホンの一時でも店長が
心を解きほぐすコトが出来たのなら、良しとすべきか。店長が笑うためにあるのでは無いコト
を願いたい。

後 説


 今迄、舌のセンスが見事に一致していた師匠と、初めての袂を分かつ体験に、ホントに
師匠はいちご天ぷらを美味しいと思ったのか?ヒョットして修行の意味も込めて敢えて反対
のコトを言ったのでは無いかと思い、恐る恐る聞いてみると、

 『あの腐った様な食感が大好き!』

 と言う答えが返って来た。…。…。…。

 腐った様な食感ってトコロまでは共通した感覚だが、その後は正反対である。現在の弟
子のレベルではとてもソコまで到達できそうにない。弟子にとって師匠は、いつまで経っても
遙かに高い山の上にいる存在なのだなと実感した。

いちごの天ぷら \350