『岩城町に焼きカレーの美味しい店があるから、今度食べに行く様に。』
と言う女王様のお言葉に導かれてB食クラバーが向かったのは、しかしサフランと言う全く違う店であった。『岩城町』と『焼きカレー』と言う2つのキーワードを女王様はB食クラバーに提供するだけで、ソレ以上は何も教えてくれなかった。
何て名前の店ですか?と、何度と無くB食クラバーは女王様に尋ねてみるもかわされるダケで、ソノ様はまるで、得体の知れない何かを右から左へと受け流している様にも感じられた。自分にも何かが右から迫って来た場合、アノ様に鮮やかに左へと受け流せる自信が無い。
受け流されればマダそれは良い方で、ホトンドの場合は無視されていた。その期間は全部で一年以上もあったと記憶する。何をやっても無視をされ受け流され、半ば自暴自棄になりながらも自力でサフランを発見したB食クラバーが、女王様が仰った店はココですか?と質問してみるとようやく、サフランなんて名前初めて聞いたと、右から左へと受け流さない答えが返って来た。
ココでも女王様は店名すら教えてくれない。情報に飢えたB食クラバーが、『パンが無いんだったらお菓子を食べればいいのよっ!』と言い放ったマリーアントワネットに激怒して蜂起した(と言う説もあるトコロの)フランス革命の如き濁流にも似た勢いで、『じゃぁ一体なんて名前なんですか?』と、それでも下手に出て丁寧に聞いてみるとやっと、やっと店名を教えてくれた。ソレがクルーザーと言うワケだ。
苦節一年(以上)、やっとの思いで店名をゲットした喜びを素直に表現したトコロ、あれ?そうだっけ?と、あくまでも呑気な答えが返って来た。こう言うのをイノセントと言うのだろうか。コレだからノーブルな人との付き合いと言うのは難しい。こうした現実を目の当たりにするダケでも、中世の貴族と庶民の間に横たわる様々な問題点が、マザマザと思い起こされる。そりゃー革命も起こるって。
その後、とある機会に女王様に、焼きカレーの店連れてって下さい!ってお願いしてみたら、時間がかかるからヤダとソッコーで却下されたコトがある。ソノ時のB食クラバーの顔は、自分で自分の顔を見るコトは不可能なので想像でしかないのだが、今迄に一度も見たコトが無い程の笑顔だったに違いない。鍬を手に手にベルサイユ宮殿へと向かった農民達もコノ様な気持ちだったのか。
マリーアントワネット付の近衛兵であるトコロのオスカルは、最終的には民衆の側に味方したが、B食クラバーにはオスカルの様な存在が、そりゃーいるワケがない。
まぁ、ソノ時の女王様には時間的に余裕が無かったのだから仕方ない。そして、焼きカレーは注文から出来上がり迄に40分位かかる、店は岩城町の住宅地に紛れ込んでいる等の情報も実は教えてくれていたのでありがたい。…出来ればソレらの情報は、一年位前に教えておいて貰いたかったが。
そうしてようやく、B食クラバーがクルーザーに出掛ける時がやって来た。
ソノ日は月曜日であるにも関わらず、何故かB食クラバーの中では火曜日の気分だった。そう言や確かクルーザーって火曜日休みだったよなと、一度も行ったコトが無いクセにソウ言う情報ダケにはヤタラと詳しくなる程クルーザーに焦がれていたのかと自分で自分を笑う。
あー今日は行けないんだなー、チト残念だなー。と思った直後、今日が月曜日であるコトに気が付いた。いや、さっき迄は、今日が月曜日であると認識出来ていたハズだ。クルーザーのコトを考えた途端、今日が何曜日だか解からなくなってしまったとしか考えられない。…曜日感覚が麻痺しているのでは無く、一年(以上)もの長い間行きたくても行けなかった店に行けるコトになった時、無意識の内に心がソレを避けてしまったのか。
そんな様々な葛藤を胸に、クルーザーへと到着した。住宅街の中にあると言うので、見つけるのが難しいのかと思っていたら、アッサリと見つかった。店の前には車が2台。空いているのかなーと期待しながら店内へと足を踏み入れると、3つあるテーブル席はすでに埋まっていた。初めて存在を知った日から今日コノ時迄、全てにおいて期待を裏切り続けてくれる店だ。
飲み屋も兼ねているかの様な佇まい。しかしコレが、最近ではあまり見かけなくなった(只単にB食クラバーが入らなくなった?)ザ・喫茶店のイメージかもしれない。店内のいたるトコロに、グラタン風カレーセットと言う貼紙がしてあったので、女王様の言う焼きカレーとはこのコトかと思い注文してみた。サラダとドリンク付。メニューにも一番人気!的な注意書きがされているトコロが心強い。
時間大丈夫ですよね?的なコトを言いながら、店員のカーサンは厨房へと入って行った。40分位かかるとあらかじめ聞いて来ているので、B食クラバー的には何の問題も無い。
まずは最初にサラダが運ばれて来た。例えばファミレスとかだったら、サラダを半分位食べたトコロでメインの料理が来たりするコトが多いと思うが、今日はそんなコトは無い。サラダはモチロン食べ終わる。メニューには書かれていなかった、和風に煮しめられた巻物を出してくれたのも嬉しかったが、もちろんソレも食べ終わる。
ソノ様にして待つコト30分。ついにグラタン風カレーが登場した。実はほぼ同時に注文した別のお客さんが、(ソノ方のほうが先に来店されていた)注文から20分位で出来ていたので、完成迄の時間は最短で20分、後は注文しているお客さんの数で待ち時間が決まるんだろうなぁと言うコトが、なんとなくだが解かった。
グツグツと煮え立つカレー。表面はチーズで覆われている。トマト・ナス・カボチャ・パプリカと、代表的な夏野菜が入っているのはきっと、今の季節と無関係では無いだろう。何故かコレに、キュウリの漬物と味噌汁が付いた。カレーにコンナ和風の付け合わせが?まぁソレが何でも、付いてくれるのはウレシイが。
グラタン風カレーにスプーンを入れる。カレーの下にあるのは真っ白いご飯の様だ。一口食べる。と、アマリの熱さに悶絶する。充分に冷ましたツモリなのだがソノ熱さは、B食クラバーの想像を遥かに超えていた。カレーを食べていて辛さのせいでは無く、熱さのせいで汗をかくと言うのは珍しい体験だ。
カレー自体の熱も下がり、B食クラバー自身にも熱に対する耐性が出て来たよなーと思った頃、もう大丈夫だろうと口の中に放り込んだカレーの熱さに再び悶絶する。全く、油断も隙もあったモノではない。
食べ終わった後にドリンクが運ばれ来た。コーヒーはホットかアイスかを選べるが、アイスを選んでおいた何分か前の自分を表彰したい気分だ。コノ状態でホットコーヒーを飲むなんて、自分も好きなのに親友との間を取り持ってくれと言われて、でも嫌われたくないからソノ通りにしてしまう、そんな思春期の中学生みたいなコトは、もう2度としたくない。
アイスコーヒーを飲んでホッとしているトコロへ店のカーサンが、お菓子を運んで来てくれた。メニューにはデザート付とは書かれていなかったので、コレもサービスと言うか、やさしい心遣いなのだろう。
幾多の困難を乗り越えてようやく辿り着いた旅路の果てで、とっても心温かい歓待を受けた、そんな気分になった。温かいと言うか、舌は火傷しそうに熱かったが。