年の瀬も押し詰まった土曜日、迫り来る正月気分に抗えず、仕事をやる気も無くしていたトコロ、県南方面に納品の仕事があったので、必要もないのに4人掛かりで車に乗り込んで出掛けた。無事終了したのがお昼位だったので、現地で昼食でも!と思ったのだが、近くではナカナカ美味しいモノが無いらしい。
さて、どうしたモノかと思ったが、ヤハリ思い浮かぶモノは無く、出掛ける時に横目で通り過ぎて来た館の丸食堂のコトが気になった。ココからだと3〜40分かかるが、試しに相談してみると意外にも全員乗り気。昼食時を過ぎている時間に到着するのなら、店内も落ち着いているに違いない。
ちなみに館の丸食堂って言うのは国道7号線沿いにあるドライブイン然とした店で、ホルモン定食が有名と言うか、ほぼ全ての人がホルモン定食を食べに来るイカした店である。他には肉鍋定食とかトンカツとかもあるらしいが、それでも肉鍋定食以外を食べてる人は見たコトが無い。
味が良いのはモチロンだが、スゴイのはその量で、御飯時はブルーカラーの方々が大挙押し掛け、いつ行っても大混雑なのも頷けるトコロ。
過去、火事に遭遇し、店の存続が危ぶまれたのだが、お客さんからの暖かい支援を頂いて、現在も無事営業中。お客さんも通い続けていると言う、ありふれたドラマの様な話であるが、現実の話だと思うと泣けてくる。
自分で提案したモノの、普段昼食を食べてる時間を過ぎるとメチャクチャお腹が減り、ヘトヘトになりながらも、ようやく辿り着いたのだが、昼食時間は結構過ぎていた。と言っても別に自分が車を運転していたワケではモチロン無いが。
店内は8割りの入り。この時間ならこんなモノか。通ぶって店の扉を開けた瞬間、『4つ。』とか喋ってから席に着いてみた。殆どの人の目的がホルモン定食なので、わざわざ料理名を口に出す人もいない。牛丼専門店に入って『牛丼下さい。』って言う様なモノだ。
暫くして料理が到着。普通ならば大盛りと判断される程の量のどんぶり飯。ちょっと小さめのどんぶりに入ってくるみそ汁。ココまで来たら全部どんぶりに入ってきて欲しいが、ホルモン煮込みは皿に盛られて来る。そして冷や奴。ココまで、御飯を除いた全ての食べ物に豆腐が入ってくる。マサに豆腐づくし。一体何故?と言う疑問は拭い捨てるコトが出来ない。
我々が食べ始めると、近くのテーブルに2人組の男子が座った。痩身の男子と、失礼だが彼とプラスして2で割ると丁度良い感じになりそうな程、恰幅の良い男子が1人。何となく気になって見ていると、痩身の男子が、『大盛り1つと普通1つ。』と注文していた。
期待通り、1人は大盛りを頼んだようである。只でさえ量が多いコノ店で、大盛りを頼む人には滅多に遭遇できない。2003年の最後に、貴重なシーンにお目にかかれそうだと、更に注意して彼らを覗き込む。
彼らの元に料理が到着。冗談の様な量のどんぶり飯も一緒に御到着。どのぐらい冗談っぽいかと言うと、どんぶり飯の上に、もう一杯のどんぶり飯を逆さまにして乗っけたぐらいの量で、パッと見、御飯と言うよりはハンドボールに近い。
女性店員は何も言わずに、大盛りを恰幅の良い男子の方に運んだ。それを何も言わずに受け入れる2人組。マサに期待通りの流れ。注文する時に『ホルモン定食』って言わないのが暗黙の了解ならば、何の確認もせずに、ナイスボディーガイに大盛りを運ぶのも暗黙の了解。コレでスマートガイに大盛りを運び、何も言わずにスマートガイがそれを食べ始めたら期待以上だったのだが。
さて、会計時。B食クラバーはお手洗いに行ったのだが、その時、扉を閉めるタイミングで、『じゃまとめて払…。』と聞こえたので、ココはその人のおごりだ!ラッキー!とか思い安心していた。B食クラバーが店を出る時、一緒に来た人達は1人も店内にいなかったのだが、会計は済んだモノと思ったし、店の人も何も言わないので、そのまま店を後にした。
今日は何て良い日だろう!何て素晴らしい日なんだろう!♪オ〜ハッピーデェ〜イと、自然に心がシンギング・アンド・ダンシング。が!
会社に帰って、定時迄の時間潰しにもならない、たわいもないお喋り中、その話は衝撃の事実を伴って知らされた。B食クラバーの分、昼食代払ってくれてありがとう!と言うと、同行した全ての人がキョトンとした表情で固まる。えっ、やだなぁ。奢ってくれたんですよね。と更に念を押してもビクともしない。マサかと思い聞いてみると、その答えを聞いたB食クラバーは真っ青になった。
誰もB食クラバーの分等払ってないのである。いや、だってあんた、確かにまとめて払うって言ったじゃんよ!とか思ったのだが、実際には個別に支払ったらしい。B食クラバーの背景に、久しぶりにタレ線が下がる。
昼食代一食分得したよ!って気持ちと、いや、コリャとんでもないコトしたなって気持ちを代弁するかの様に、天使と悪魔がB食クラバーの左右の耳元で交互に囁く。コレも天の思し召しと、良いコトなんて何一つ無かったコノ一年の締めくくりにしようかと、ほぼ心が固まりかけたトコロでクラバーMさんが、『今頃警察に連絡が行ってるかもしれないよ!』と脅す諭すので少々ビビリ、結局昼食代を払いに行くコトにした。
昼の部の営業が終わり、閑散とした店内にはオヤジが1人。普段は人の良い大人しそうなオヤジに見えるが、こんな時はメチャクチャブチ切れまくる人かもしれない。最悪の事態を予想しながら恐る恐る、昼にお金を払わないで帰ってしまったコトを伝えると『あっ、そう!』と、そんなコトにはまるっきり気付いていない様子で軽く応対を返してきた。
『はっ?』と、コチラが肩透かし。更に震える指先で\1,000を手渡すと、明らかにその場に適正な小銭が無かったためとしか思われない様子で、『はい、\20オマケ。』と言って\350のお釣りをくれた。ホルモン定食って\700じゃなかったろうかと言う漠然とした思いも、\20得したって言うササヤカな満足感に掻き消されて行った。
何一つ間違ったコトをしているワケでもなく、人として正しいコトって言うか当たり前のコトをしたダケなのだが、何かこうスッキリしない。この出来事が、2003年のB食クラバーを象徴している様で、何だか泣けて来た。しっとりと。