このページは、全国チェーンのイタリアン、カプリチョーザが秋田に開店したての頃に行った時のコトを書いています。
日頃から自分のコトを、味盲だと公言してはばからない I さんが、駅前の方に美味しいパスタ屋が出来た!と言っていた。普段ならスグに飛びつく情報なのだが、なにせ味盲だと公言してはばからないI さんの言葉である。そうやすやすと信じるワケにはいかない。だが、B食クラバーMさんがすぐさまその情報に飛びついた。
パスタ好きのB食クラバーMさんは、どこかでその情報を聞いたコトがあり、是非一度行ってみたい!と思っていたらしい。毎度のコトだが、B食クラバーMさんの情報収集能力の高さには舌を巻く。
味盲 I さんの言葉だけでは、イマイチ行く気になれなかったが、B食クラバーMさんが絡むとなると話は違ってくる。3人で出掛けるコトにした。
店に着く迄の間、何を食べようか話し合っていた。初めて行くパスタ屋では必ず食べる、ナスとベーコンのトマトソースを食べたい!と思ってい。味盲I さんは、自分が好きなカルボナーラを食べたいと思っている様だ。B食クラバーMさんはパスタではなく、カプリチョーザイチオシと噂されているライスボウルが気になって仕方ないみたいだ。これから食べるコトが出来る美味しいものタチを想像してワクワクしていると、それを遮るように味盲I さんが、『その店、ちょっと量が多いんだけど』と言い始めた。
どの位の量なのかハッキリ解らずに戸惑っている我々に向かって、味盲 I さんは、『あっ、でも3人で2皿なら丁度良い量だと思う。自分もお腹空いてるし。』と言ったので、カプリチョーザ未経験の我々は、唯一の経験者である味盲I さんに従うコトにした。何事も先人の意見は尊重すべきであ、と言う日本人古来からの考え方が働いたのかも知れない。もし万が一食べ残す様な事態に陥っても、お腹を空かせている味盲I さんがどうにかしてくれるに違いない。大船に乗ったつもりでスパゲッティは2品頼むコトにした。
店に着く。ナカナカ小洒落た店だ。女性客が多いのも頷ける。早速注文を取りに来た店員に向かって我々は、スパゲッティ2品と、サラダ、ピザ、そしてB食クラバーMさん御所望の、ライスボウルを頼んだ。店員は固まったまま動かない。そして、『あのぉ〜、うちのスパゲッティ、ちょっと量が多いんですけどぉ。』と、不安げに言う。すかさず味盲I さんが『あっ、大丈夫です。』と言った。その力強い言葉を聞いて、我々も大きく頷いた。
今思うと、『あぁ、この人達には何を言っても無駄だ。』と言うあきらめの表情をかすかに浮かべながら、その店員は厨房へと向かっていったのに違いない。あるいは、『またかよ。』なんて思っていたのかも知れない。サラダを食べ、ピザを食べ、美味しいねって微笑みあっていた我々が、自分たちの浅薄さ加減を知ったのは、その直後のコトである。
サッカーボールを半分に切った様なドンブリ状の入れ物の中に、これでもか!って位にパンパンにスパゲッティが詰まっている。どう考えてもコレ1皿で通常の3人分。やだなぁ、大盛りなんて頼んでないですよ!と軽い気持ちで店員に言おうと思い顔を見ると、それ見たコトか!と言う様な顔をしてコチラを見ている。(様に感じた。)
そんな尊大な態度(に感じた)の店員の視線が我々の心に火を付けた。どうしても食べてやる。しかも表面上は平静を装って。しかしその決意は、いとも簡単に崩れ去ってしまった。とにかく量が多すぎ。美味しいからあっと言う間に食べられるだろう!なんて思っていたのだが、人間の胃袋のサイズは無限では無い。限界はあっと言う間にやって来た。2種類を交互に食べたらヒョットして!って考えも、効果は無し。状況は泥仕合の様相を呈してきた。
予想だにしない持久戦が始まった。不意打ちの様に訪れた食い放題の機会を前に、人間の力とはこんなにも無力なモノなのかと思い知る。ふと味盲I さんを見ると、箸というかフォークがピタッ!と止まって動かない。『あー、お腹一杯。あと食べて下さい。』あっさりと、そしてサワヤカにギブアップ宣言をしてしまった。
ちょっと待てぃっ!あんた最後迄頑張る係りじゃないんかい!とうろたえ、ふと横を見るとB食クラバーMさんまで視線でこちらに何かを訴えている。『ブルータス、お前もか!』と、いまわの際におっしゃった、シーザーの心境もかくありなん。『泥仕合ってのはな、最後まで踏ん張った奴が勝つんだ。』と言うペリカンロードの名セリフも脳裏をよぎる。
その後は、何があったんだが良く覚えていません。ただ、最後に口にしたスパゲッティが、カルボナーラだった様な記憶だけがカスカに残ってます。救いは、ライスボウルを頼んでいたのが1個だけだったってコトでしょうか?ソフトボール並の大きさのライスコロッケを、誰が食べたのか、そんなコトすら覚えていません。
『君信じたまふことなかれ。味盲 I さんの言葉を。』と、何故かその時脳裏に浮かんだ。与謝野晶子もビックリしていたに違いない。